警視正は彼女の心を逮捕する
「綺麗売りしていた頃より、喜怒哀楽が豊かで。俺がそうさせているのだとわかると、一層愛おしいね」

 私がありのままなのが幸せそうな、誇らしそうな。
 そんな表情をされると、どうしていいのかわからなくなってしまう。

 車が止まった。

「さ、将来の奥様。着いたよ、どうぞ」

 ドアを開けて手を差し伸べられる。
 握ることをためらってしまう。

「……あの……、未来も奥様では」

 ぼそぼそと抵抗してみる。
 すると、軽やかに対処されてしまった。

「では、婚約者どの?」

 いや、婚約者でもないんですが。
 けれど、鷹士さんからのプロポーズをOKしてしまった。
 するとフィアンセになってしまうのだろうか。

 私が悩んでいると、手を握られて、車から引っ張り出された。

「きゃっ」

 とん、と鷹士さんの分厚い胸に顔がぶつかる。
 とくんとくん、と彼の心臓の音を感じる。

「このまま抱きしめていたいけど」

 囁かれた声は情熱と甘さを孕む。
 体を硬くしていると、しっかりと背中に両腕を回されてしまう。
 周り全部が鷹士さんで、クラクラしてくる。

「包囲網完了。突撃し、マルタイを確保せよ……ってわけにはいかないか」

 うっとりしていたら、小さなつぶやきが聞こえて来た。
 ハッと正気に戻ると、鷹士さんが苦笑する。

「じゃあデートしようか。俺の片思い相手の藤崎さん」

 ずきん。
 その言い方は嫌だ。

 奥様って言われても恥ずかしさを我慢すればよかった。
 婚約者と言われて、抵抗しなければよかった。
 でも散々ごねて、いまさら撤回できるわけもなく。
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