警視正は彼女の心を逮捕する
 ……どこでもそうだけど。
 鷹士さんが現れると、『()が来た!』という空気があっというまに伝播する。

 とくに美術館は顕著だと思う。
 目の前の芸術に集中しているせいか、『生きている芸術に遭遇してしまった』と気づいたときの衝撃が大きいのかもしれない。

 今も、私達が展示室に入った瞬間。
 前にいた人々が、モーゼが手をかざした海みたいに二つに割れた。
 続いて、波の音のように言葉が耳に飛び込んでくる。

「誰あれ芸能人?」
「知らない。この展示にアンバサダーいたっけ?」

 女性のヒソヒソ声がやがて男性の耳にも入り、私達は注目される。

「顔面偏差値エグっ」

 ですよね!
 鷹士さんは『世界いい男ランキング』に絶対、上位登場するはず。

 ……次にくる台詞も想像つくので、身構えた。

「残念。彼女つきかぁ」
「でも、地味」

 多分、私は『……虚無』みたいな顔をしているんだろう。
 隣のイケメンを最大評価した分、隣の私を見て失望されて。
 挙句にディスられるの、慣れっこです。
 物心ついたときから。

「格差カップルすぎ。あの程度でイケメンの隣をキープするの、ずうずうしいよね」

「もしかしたら、見えないけれどホストか、デートクラブ男子かな。うわ、どこのお店だろ」

 いたたまれなくて、体を小さくしてしまう。
 すると。
 
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