警視正は彼女の心を逮捕する
 ここからは内緒話なので音量を落とす。

「だからっ、私でガードをしているんでしょ? 美女達も、とりあえず女だとわかる私を押しのけてまでは、声かけてこない。ほら、大正解!」

 どうだ! とばかりの顔をして見せた。

 鷹士さんはふ、と表情を緩ませる。
 柔らかく、そのくせ男らしくて、でも切なそうにも見えてしまう。
 ……私、この(ひと)に何度うっとりすれば、気が済むのだろう? 
 自問して、一生という自答は聞こえなかったフリをした。

「大外れ」

 あれ、違った?
 私が目を丸くしていると。

 鷹士さんは、顔を曲げて私の耳たぶを喰むように囁いた。

「馬鹿だね、日菜乃は」

 嘆息しながらも、愛おしさが限りなく込められた、彼のバリトン。
 空気に乗った瞬間、声にならない波紋が展示室内に広がった。

 もちろん、直近でいい男攻撃をくらった私が一番重症。
 足から力が抜けそうになる。

「大変好ましくない解釈だ、事実とはだいぶ違う」

 上から鷹士さんの顔が近づいてくる。

 きゃーっという密かな、でもワクワクした悲鳴がそこここから生まれる。

 近い近い近い! 
 私も心のなかで悲鳴をあげた。

 逃げようにも彼に腰をがっちり掴まれているため、一歩も動けない。
 私の唇と鷹士さんの唇まで、体感一センチの距離でようやく止まる。
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