警視正は彼女の心を逮捕する
「腹が減ったろ。飯でも食おう」

 リビングに戻ってきた鷹士さんが話しかけてくれた。

「いえ」

 とても食べられない、と断ろうとしたのに。
 キュルルル……と、お腹に猛抗議されてしまう。
 私のお腹の馬鹿ぁ!

「なんでっ、TPOも弁えずっ……」

 慌ててお腹を抑えたけど。
 後ろを向いた鷹士さんは肩を震わせている。
 私は頬が熱くなってきた。
 
「……俺。普段は綺麗売りしてながら、時々コミカルになる日菜乃ちゃんがすげぇ好き」

 しばらくして。
 笑いの発作がおさまったらしい鷹士さんが向き直り、口調を崩してきた。
 彼の言葉の意味を考えようとするのに、お腹はキューキューと余計にうるさい。

「おじやか、うどん。どっちがいい?」

 鷹士さんが、目尻を拭いながら提案してくれる。

「……おうどん」

 しぶしぶ返事をした。

「わかった。支度しておくから、体を温めておいで」

 バスルームは廊下を出て二つめの左側のドアと教えてくれた。

「バスタオルや、ある物は好きに使って」
「……はい……」

 完全に子供扱いだ。
 けれど、抵抗する気力はない。私はとぼとぼと廊下に出ていく。
 
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