警視正は彼女の心を逮捕する
 ……あの一週間は人生で最高の時間の一つ。
 ホットチョコレートのように甘く、熱い視線を浴びた日々。
 思い出すたびにうっとりしてしまう。

「美術館デートは素敵だった……」

 * 

 終始、紳士的なエスコート。
 最愛の旦那様と、大好きな美術品に囲まれる、至福のとき。

 ふと。
 鷹士さんはまた曖昧な顔をしているのかなと思い、横顔をちらりと盗み見る。
 
 すると私の表情にきづいた彼は、ぱちんとウインクを寄越した。
 ときめいてしまって逃げ遅れたら、抱き寄せられて耳に歯を立てられる。

「ヒャンっ」
 
 変な声が出た。
 慌てて口を塞ぐ。
 
「美術修復士の夫が芸術を解さないなんて言いふらさないでくれよ」

 色っぽい声を耳に注ぎ込まれて、体がキュンキュンしてしまう。
 ……『耳が妊娠する』という言葉の意味を、身をもって実感した。

「日菜乃?」

 彼の声で呼ばれると、自分の名前なのにどうして艶かしいんだろう。
 下半身から力が抜けそうになってしまう。

「し、……ない」

 自分の旦那様の艶かしさに、うっとりしながら約束した。

 *

 茹でたこになりながら、次の思い出を反芻する。
 
「街巡りも楽しかった」

 スクーターを借りて、有名な映画ごっこをしてくれた。

 最高の思い出は、師匠が近隣住民や工房のスタッフを呼んで庭先で結婚式をさせてくれたこと。

 
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