警視正は彼女の心を逮捕する
 ……新婚旅行から戻ってきて、時差ボケのための予備日も昨日で終わり、今日から出勤だ。
 鷹士さんは一昨日から出勤している。

「タフだなぁ」

 鷹士さんとの甘い時間は今度の週末までお預け。

「さ! 美術品達が修復を待っている!」

 私は両頬をぱちんと叩いて気合いを入れる。
 休憩のあいまにつまめるお菓子は更衣室の小机におき、個々へのお土産はポルチーニ茸の乾物にした。

『リゾットにすると、美味しいです』とレシピのメモを添えて。
 ピザのトッピングやパスタ、プレーンオムレツに混ぜるのもよき。

 そして、心に決めたことがある。

「絶対、『どんな美術品を見た』なんて、言わないんだから!」
 
『どこそこの美術館に行って、なんの作品を見た』と同僚に報告したとする。
 きっと『そのとき旦那さんはどうしてたの?』など、聞かれるに決まっているのだ。
 挙句に。
『藤崎さんのことだから。美術品に浮気して、旦那さんを放置プレイしてたんでしょう』とか言われるに違いない。
 ……否定できないし、あらたなネタを自ら提供することもない。

「それにしても。今までも散々揶揄われているのに、まだ飽き足らないのかなあ」

 新しいネタができるまで、ずっとかも。
 よそう。
 ため息をつくと、私は頭を切り替える。



 
 ……仕事に没頭していると、警備室から内線が入った。私あての来客があるという。

「え?」

 鷹士さんかな。

 通用口は、皆が待ち望んでいる学術書が届いたり。
 この部屋だと、注文しておいた修復道具などが配達されているので、誰かしらが気にしている。

「彼だとすると。ニヤニヤされて『最愛の殿方がおでましよー』とか、生温かい声をかけられるだろうから……」

 違う人なのだろう、と結論づけた。
 職員通用口の、警備控え室前にいるとのこと。

 手がけている修復品の状態を確認する。
 ひと区切りついたし、時間は十八時を過ぎたところだ。
 上がっても問題ない。

「早めに帰ります」

 同僚に声をかけた。
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