警視正は彼女の心を逮捕する
 すると。

「やーん、お熱いー」
「イケメン旦那様によ・ろ・し・く」

 散々な声をかけられ、私はまたも「……虚無……」という顔になった。

「もー、みんな忙しいくせに」

 ぼやきながら修復室を後にする。

 警備員に声をかけ、通用口から出る。
 少し離れた所に女性らしいシルエットが佇んでいる。

 ……知らない人だ。

 修復室の同僚以外で親しい女性はお母さんと、宗方のおば様。
 そして師匠くらいで、その三人の誰とも体型が似ていない。

 お母さんは小柄だし、おば様は着物姿。
 師匠は縦横奥行き、全てが大きい。

 修行中や専門学校時代の仲間なら、事前にメッセージがあるはずだし。
 ……類は友を呼ぶというやつだろうか。
 皆、『修復品のためならどこにでも行く!』というタイプばかり。
 アポなし訪問は大抵、不在。
 なので別れの挨拶は『会いに行く前に所在確認、必須!』だった。

 シルエットが声をかけてきた。

「藤崎日菜?」

 高圧的だ。
 しかも名前が違っている。

「どなたですか」

 警戒しながら問えば、女性は照明の下に姿を現した。
 綺麗にセットした髪、ナチュラルメイクが引き立つ、すごい美女。
 高級そうな装い。
 この女性は、どこのセレブなのだろう。

< 152 / 223 >

この作品をシェア

pagetop