警視正は彼女の心を逮捕する
 ……同日、警視庁大会議室。

 十八時を過ぎた頃、賀陽日菜乃から夫へ。
『悠真さんに誘われて出かけます。意味不明、行き先不明、帰宅時間不明です』とメッセージが入った。

 わざとなのか、通話モードになっており。
『……どうせ、既読にならない』と、悲しそうで苦しそうな日菜乃の呟きが室内に響く。

 捜査員達が鷹士に向ける眼差しは、“偽装工作か“という疑いと。
 “奥さんからの連絡を無視しているのか……、鬼!“と非難が交叉する。

 鷹士は表情を崩さない。

 ……今の台詞から推して、日菜乃は【暗号】を覚えていない。
 彼女からは何度もメッセージを送られてきたが、返事ができなかった。
 結果、彼女を追い詰めた。

 ようやく心が寄り添えたばかりなのに。
 日菜乃に鷹士を信じられなくしたのは、自分自身。
 愛している妻は、親友とよりを戻してしまうのか。
 焼けつくような嫉妬と。

 もしくは悠真から陵辱、殺害されたら。
 心臓を鷲掴みされたような不安。
 監視は、警護ではない。
 彼女になにかあっても守ることも出来ない。

 夫なのに、ここで二人のやりとりを盗み聞くしかできないとは……!
 
 彼が己の手のひらに爪を食い込ませたことを察したのは、捜査員の中でも一人か二人だった。

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