警視正は彼女の心を逮捕する
 ……わずか十数分で日菜乃は退室したが、悠真は在室のままである。
 日菜乃はなにを思ったか、職場の美術館へとって返した。
 あとは雑踏を歩いているような音がしばらく続き、彼女からの『通信』は切れた。

 課長補佐が遠慮がちに鷹士へ問う。

「課長。被疑し……、いや日菜乃さんのほうは」

 鷹士は冷たい声で命じる。

「監視を続けろ。悠真は動いたか」
「いえ」

 それから数時間に及んだが、日菜乃は美術館から姿を表さない。
 悠真も同様で、動きは見られない。
 捜査員達に焦りが見え始める。

「あの料亭、別の出入り口があるのか?」
「いや。地下駐車場からしか、出入りは出来ないはずだ」

 誰かがボソリと呟く。

「……あるいは。宗方悠真は、賀陽日菜乃によって殺害もしくは昏倒させられたのかもしれない」

 捜査員らはギョッとしたが、納得もする。
 それほど日菜乃と悠真の会話には、緊迫した雰囲気があった。

「たしかに……彼女が逆上したすえ、犯行に及ばないとも限らない」

 鷹士に遠慮しつつ、同意の声があがる。
 課長補佐と、捜査員達が密かに目を見交わす。

「料亭を監視していた捜査員を、急行させますか?」

 課長補佐が耳打ちしてきたとき、悠真本人から鷹士へ連絡が入った。
 発信者を見た途端、鷹士は再び接続を命じる。
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