警視正は彼女の心を逮捕する
 だからといって。
 お父さんやお母さんを巻きぞえにしてまで、鷹士さんに尽くす?
 
「愛してほしいから、旦那様に媚を売るの。……違う。人間としての正悪の話で!」

 漫画で、懊悩と葛藤の表現として【悪魔の主人公と天使の主人公が左右から語りかけてくる】というシーンがある。
 まさか、自分がそんな立場になるなんて。

 頭の中がぐちゃぐちゃで、めまいと吐き気が止まらない。

 *

 ……どれだけ悩んだんだろう。
 数時間もしくは数秒。
 私はうつむいていた顔を上げた。

「鷹士さんの役に立ちたい」

 この恋が報われなくてもいい……まで思って、自分を嗤う。

「私はバカだ」

 どれだけ、好きな人に尽くしたいんだろう。
 悠真さんに『使用人』と思われるはずだ。
 
「……仕方ないよね」

 鷹士さんが手柄を立てて、用済みになった私の前から彼が去っていっても。
 彼がくれたものが偽りだったとしても、私が幸せだと感じているから、いいんだ。

「彼にしたら、つまらない時間だったかもしれない。でも私にとって、鷹士さん過ごした一瞬すら宝物だもの」

 覚悟を決めると、私はスクショして鷹士さんの携帯に送った。
 既読はつかなかったけれど、気持ちは晴々としていた。
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