警視正は彼女の心を逮捕する
 なおも喚いている男性から遠ざかる。
 知らない人についていくのも二度までだ。

 ……そうだ。

「離婚しても旦那様の苗字を名乗ること、出来るのかな」
 
 携帯で調べようと思い、バッグの中に手を入れると。

「無視するなっ」

 怒鳴られた。
 しかも声が近づいてきている。

 仕方なく、立ち止まる。

 男性の顔には脂が浮き、シミにシワが目立つ。
 これはなんの原因でそうなって……、加齢か。
 いけない、彼は修復対象じゃない。

 とはいえ観察を続けてしまう。

 頭は寝癖がひどく、目が血走っている。
 服は……、コートの下はパジャマ?
 怖い、なに。

 ちら、と建物を見やる。
 警備員さん、来てくれないかな。

「助けてくれなさそう……」

 美術館を守るのが仕事だもの。

 でも、走って逃げられるほど体力が残っていない。
 とうとう男性が一メートルくらいにまで近づいた。

「お前がイタリアで見破らなければよかったのに! なんで今ごろになって発見するんだっ」

 至近距離で怒鳴られて、耳がキーンとする。

 ……こう言うの『口角、泡を飛ばす』って言うんだっけ。
 昨日修復予定の油絵を調べたら、クリムソンレッドで額縁で隠れていた部分に書いてあった。
 意味を調べたんだよね。

 それはさておき男の人、気になることを言った。

「『見破る』?」
 
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