【完結】七年越しの初恋は甘く熱く、ほろ苦く。


 これが祥太くんの、本当の気持ちなんだと思った。

「あれは俺の、父さんへの精一杯の反抗だったんだよ。 父さんに医者になることを決められていた俺にとって、父さんみたいな医者になることはプレッシャーでしかなかったんだと思う」

 祥太くんの本当の気持ちは、ちゃんと胸の中にあったんだ。

「俺は父さんみたいな医者にはなれない。父さんは本当にすごい人だからな。 数々の研究データから難易度の高いオペを成功させたし、研究を重ねた論文が病院の雑誌にも掲載されて注目されて、メディアにも出てるだろ?」

「うん、まあ……そうだね」

「父さんのオペを待っている患者はたくさんいるし、父さんのオペの腕は世界一と言ってもいいと、俺は思ってる。……誰よりも父さんがすごい人だとわかってるからこそ、俺は父さんのような医者になることは出来ないってわかったんだと思う」

 祥太くんがずっと葛藤していたものは、きっと胸の奥にしまい込むつもりだったんじゃないかと思った。
 封印して、誰にも明かすことすらしたくなかったんじゃないかと思った。 私はその扉を、こじ開けてしまった。
 なんだかそれが本当に申し訳ない気持ちになって「祥太くん、ごめんね」と謝った。

「え、なんで絵梨沙が謝るんだよ?」

「本当は……こんなこと言いたくなかったんじゃないかって思ってさ。 もしそれが私が言わせてしまったことなら、申し訳ないなって思って……」

 でも祥太くんは優しいから「違うよ。絵梨沙のせいじゃない。 気にするな」と笑っていた。
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