最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
「おばあさんの土地の名義、必要なら臨に替えても かまわないんだぞ」

 貴治さんが静かに切り出したので、私は小さく首を横に振った。

「実は、その件なんですけれど……この家を二神不動産にお任せしようと思うんです。できるなら……当初の予定通り、鎌田社長にお譲りしていただけたらと」

 私の回答に、貴治さんは虚を衝かれた顔になった。貴治さんとの別れを決意したときにも告げたが、あれは勢いでも強がりでもない。少しずつ考えていたことだ。

「怖かったんです。両親もいなくて、育ててくれた祖母も亡くして。家まで失ったら、本当にひとりぼっちになってしまう気がして……。この家を残したかったのは祖母のため、と言いながらずっと自分のためでした」

 叔父に簡単に手放されてしまうのが悔しかったのもあって反発もした。でも、いつかは手放さなくてはならない。

「私も家が病院から近かったから何度も祖母のお見舞いに行けました。祖母が生きていたら……誰かの役に立ちたいと願うと思います。この日記を見て、改めて確信できました」

 迷いながらも、祖母の日記に後押しされ、私は決意を固めた。

「……本当にいいのか?」

 貴治さんの問いかけに、力強くうなずく。

「はい。あ、でもすぐに家を壊したりするのは、ちょっと……まだ片付けとかもありますし」

「そこは臨の気持ちを最優先にする。焦らなくていい。鎌田社長もわかってくれるさ」

 優しくフォローする貴治さんを見て、つい噴き出してしまう。私の反応に、貴治さんは狐につままれたような表情だ。
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