大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】
「……ミト?」

しばしの沈黙の後、セルファはミトに呼びかけた。
もちろんひたすら寝た振りを続ける。
セルファが動く気配、そして、視線を感じた。
もしかしたら覗き込まれてるのかもしれない。
ものすごく緊張したが、それでもミトは寝たふりを続けた。

「本当に寝てるのか…」

(そうよ!私は寝てるのよ!優しいセルファならきっと、そのままゆっくり眠らせてくれるわよね!ね!お願い!)

気合を入れると体に力が入ってしまうのである。
いけないいけない、と、ミトは考えることを止めた。
無になるのだ、自分。

(え!?)

少しして、セルファが自分に触れてきた。
動揺を悟られないよう、ひたすら寝た振りを続けるミト。

(うわっ!!!)

ふわりと体が持ち上げられる感触に、思わず声が出てしまいそうになった。

(何!?何!?)

すぐに柔らかな場所に下ろされる。
顔を見られるとバレそうで、ミトは寝返りの振りをしてうつ伏せになった。
気持ちの良いシーツの肌触りで、ベッドの上に運ばれたとわかった。
セルファが側室の部屋に滞在する時間は決められている。どんなに早くとも、あと2時間はこの部屋にいるだろう。
それまで、寝たふりを続けるしかない。起こされても、爆睡するしかないのだ。

(でも、きっと起こさない。だってセルファはユフィーリオ様だけがいいんだもの)

そう信じてミトはひたすら目を閉じ続けた。
幸いセルファは何もしてこない。
ホッとするミト。
そして、いつの間にか本当に眠ってしまうのであった。
なんだかんだ言いつつ、神経は図太いぞ、ミト。

(なんなんだ、一体…)

ベッドの上で気持ち良さそうに寝息を立てて眠るミトに、セルファは呆れた。
この部屋に来る前に、再度ミトについての復習はしている。
好奇心旺盛で、昼は散策や勉学に励み、王宮や離れで働く者たちにも積極的に話しかけていると聞く。
そして、夜は正反対に奥手だとも。
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