悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「公爵邸で貴族の礼儀作法は習っておりますから。平民ですが少しくらいなら〝お堅い喋り方〟もできます」
だが、ここで焦る私ではない。
リタ代役時にいろいろな場面を切り抜けてきたのだ。
私は笑顔をすぐに作り、にっこりとロイに笑ってみせた。
そんな私を見てロイは「そうだね。勉強熱心な君ならすぐに貴族の礼儀作法も身につくよね」と納得したように頷いていた。
…本当に納得しているのかは正直わからないところだが。
「さて、君の難しい事情はわかった。それでも君の安否くらいはユリウスに伝えてもいいかな?ユリウスがとても心配していてね。ここ1週間、騎士団の仕事も学院も休んで君を探しているんだけど、目に見えて弱っているんだよ、ユリウス」
「…」
ロイが窺うように私を見つめる。
ユリウスが必死に私を探していることは知っていたが、いざ、ユリウスの様子を知っている人から直接ユリウスが弱っていると聞いてしまうと心が苦しくなる。
もう2度と弱っているユリウスなんて見たくなかったが、今度は私が原因でユリウスが弱っているなんて。
「…わかりました。ユリウスに私の安否を伝えてあげてください。でも…」
私はそこまで言って一旦言葉を区切った。
ロイに念を押す為だ。