悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜




彼女を見失ってしまったのはここルーワの森だ。
つい先ほどまで、彼女の存在を確認できていたはずだが、突然彼女は僕たちの目の前から姿を消した。
あまりにも綺麗さっぱり彼女の存在が消えてしまったので、様々な修羅場をくぐってきた騎士たちでさえも、この状況に困惑していた。

ここはリタが懇意していた魔法使いキースのいる森だ。
おそらくあの魔法使いが魔法を使い、僕たちの前からリタの姿を消したのだろう。そうでなければ、ここまで綺麗に全てを消すことは不可能だ。

やはり彼女がリタであり、魔法使いと何か関係があることは間違いない。

また僕が彼女をリタだと確信できた理由は他にもあった。
それはあの身のこなしだ。
最上階である4階から難なく下へと降り、さらには帝国騎士団の鍛え抜かれた騎士たちを翻弄したあの脚力に先を考え判断し、ルートを選ぶ頭。
その全てが普通ではなかった、剣術を磨き、模擬戦で活躍していたリタによく似ていた。



「ロイ様」



本物のリタのことを考えていると、後ろから今度はピエールが声をかけてくる。



「情報の共有に参りました。現在、森全域を捜索中ですが、最後にあの女性を見かけた数メートル先で魔法の痕跡が見つかったとのことです」

「そう…。それならもうお手上げだね」



真剣な表情で報告するピエールに僕は肩を落とす。
魔法を使われては今の僕たちに彼女を探す術はない。
仮に宮殿所属の魔法使いを連れて来たとしても、帝国一の魔法使いの魔法を打ち破るのは難しいだろう。



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