悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「やっぱり君は面白いね。これから楽しくなりそうだよ」
「それはよかったですわ」
8年間、私はあらゆる手を使ってロイと婚約しようとした。
そして気がついた。
この男は完璧であるが故に、変化や異端を好み、普通ではないもの、自分にはないのもを常に求めている、と。
だから私は普通ではない令嬢を演じた。
あんなに人前では好き好きオーラを出していたのにロイの前では出さないようにしたり、剣術を磨いて誰よりも強くなってみたり。
ロイには理解できない謎の存在になってやろうと決めた。
そしてついに婚約者としての座を得たのだ。
ちょっと特殊な形になってしまったけど。
「リタ、婚約条件の再確認をしよう。僕は君に僕を退屈させない最高の隠れ蓑になって欲しい、君は僕に公共の場で最低限婚約者として振る舞って欲しい、だったね」
「そうですわ」
何ということでしょう。
私たちの婚約は条件付きの婚約だったのです。
別にロイはリタを愛して婚約した訳ではなく、面白いリタを側に置き、ついでに他の婚約話や女性から自身を隠すための道具にしてしまったのだ。
腹黒皇太子には脱帽だ。
これは一筋縄ではいかない。
だが、伯爵との契約内容は〝皇太子の婚約者の座を得ること〟だ。これは変な形ではあるが達成できているので文句は言わせない。
「これからよろしくね、リタ」
「こちらこそ」
優しい笑みのはずなのにどこか意地の悪さを感じさせるロイに私は自身の猫目を細めてにっこりと笑った。