冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「誰だったの?」
怪訝な目で弓弦が尋ねてくる。誰かなんて、私にもわからない。
「なんかね、塾の勧誘。どうして私が高校生の保護者ってわかるんだろうね。個人情報だだ漏れすぎ」
真っ赤な嘘だけど、実は前に一度だけ今話した体験をしたことがあった。
なぜか私の携帯に家庭教師を名乗る女性から電話があって、『高校生の弟さんがいますよね?』と言い当ててきたのだ。
いきなり電話をかけてきたのが不快だったし、家族構成まで知っているのが気持ち悪かった。なにより家庭教師を雇う余裕なんてなかったのできっぱり断ったけれど、まさかその経験を嘘に生かせるなんて皮肉だ。
「なんか、会うみたいな話してたけど……俺、塾通う気ないよ?」
「うん、わかってる。でも、どれくらいお金かかるかとかだけ念のため聞いておきたいの。私がひとりで話聞いてくるだけだから弓弦は気にしないで」
「ふうん。いいけど、うまく丸め込まれてくるなよ」
「大丈夫。わかってる」
弓弦はそれ以上深く突っ込んでは来なかったので、なんとかごまかせたようだ。
嘘をついてばかりの姉でゴメンね……。
声には出さずにそう伝え、胸の中で膨らむ罪悪感を必死で押し隠す。
それからもう一度スマホを操作し、鏡太郎さんへ送るメッセージを作成した。
【弓弦から事故のこと聞きました。今夜は弟が心配なのでアパートに泊まります。鏡太郎さんのお怪我はいかがですか? 弟を守ってくださって本当に感謝しています。どうかお仕事無理しないでください】
なんだか他人行儀な文になってしまったが、直す気にはなれなかった。
近づいたと思っていたはずの彼との距離が、今また遠く離れて霧の向こうに見えなくなってしまったよう。
すぐには既読がつかなかったので、気にしないようにするためにもスマホをバッグにしまう。それからアパートに着くまで目を閉じ、思考をシャットアウトした。