冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

 スマホにショートメールが届いたのは、深夜のことだった。

 弓弦はとっくに休んでいたけれど、私はなかなか寝付けなくてベッドの中で寝返りを繰り返してばかりいた。そんな時、枕元のスマホが短く音を立てる。

【今からひとりでここに来い】

 メッセージの下にはリンクが貼られていて、開いてみるとうちから徒歩圏内の場所にあるバーのようだった。

 きっと、このアパートの場所も知られているんだ……。

 ぞわ、と背筋に恐怖が走って、思わずベッドの中で丸くなる。

 鏡太郎さん……。救いを求めるように彼の顔を思い浮かべ、夕食時に彼から届いたメッセージをスマホの画面に表示する。

【俺の怪我なら心配いらない。しばらく残業が続くから、弓弦くんの怪我が回復するまでそばにいてあげるといい。なにか困ったことがあったら、いつでも連絡して】

 困ったことがあったら……。

 本当は、今がまさにその場面なのだと思う。得体のしれない人物からの電話が続き、今度は直接会う約束までしてしまった。
 
 弓弦の事故は仕組まれたものだったようだし、次は私自身が危ないかもしれない。

 もしかしたら、最初からそれが目的……?

 そんな思いつきが脳裏をかすめると、少し冷静さが戻ってくる。

 ベッドから下り、外に出られる服に着替えながら頭の中を整理する。

 だって、鏡太郎さんが本当に悪い検事で私を利用したいなら、これまで通りそばにいた方が情報を得やすいし、行動も監視しやすい。

 なのに、ボイスチェンジャーの声の主は、私と彼をしきりに別れさせようとする。私たちが一緒にいることで、なにか不都合があるのだ。

 父の事件を調べている彼と、父の無実を証明しようとしている私。

 もしも私たちが協力し合い、これまで隠されていた真実に気づいたとしたら、一番困るのは誰……?

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