冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
指定されたバーにはお客さんがふたりしかいなかった。カウンターの手前側に女性がひとりと、ひとつ椅子を空けた奥に男性がひとり。両者ともスーツを着た普通の人に見える。
彼らのどちらかが私を呼び出した相手? それとも、別の場所に隠れている?
判断がつかずに立ち尽くしていると、女性の方がこちらを振り向く。照明を絞った薄暗い店内でも、とても美人であるとわかった。
目鼻立ちがくっきりしていて、緩くうねる艶やかな長い髪を下ろしている。
あの人、どこかで会ったことがあるような……?
そう思っていると目が合って、彼女は席を立ってニコッと微笑んだ。
「あなたが村雨琴里さんね? どうぞこちらへ」
「えっ? は、はい……」
電話で話した時の印象とはまるで違っていて、混乱しながら彼女の隣の席に着く。
きつい香水の香りがして、思わず小さく噎せた。
奥の男性は関係なかったようで、私たちには一瞥もくれずにウイスキーグラスを傾けている。
「お酒にする? それともソフトドリンクの方がいいかしら?」
「ソ、ソフトドリンクで」
オドオドしながら答えると、女性がバーテンダーに烏龍茶を頼んでくれる。
すぐに運ばれてきたそれを警戒して手を付けずにいたら、「毒なんて入ってないわよ」と笑われた。
信じていいものかどうか迷ったけれど、意を決して口をつける。幸い、ごくふつうの烏龍茶だった。