冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「名乗るのが遅くなったけれど、私、検察事務官の舞鶴って言います。いつも、食堂で美味しいお食事をどうもありがとう」
「検察事務官……」
彼女が差し出してきた名刺をまじまじと見つめる。勤務先は東京地検で、だから見覚えがあったのかと納得する。
「検事のパートナーとして一緒に仕事をしているバディのような関係ね。察しがついていると思うけれど、私のパートナーは神馬検事なの。だから、彼の不穏な動きにもすぐに気が付いた」
舞鶴さんは目の前のカクテルグラスを指先で撫で、こちらに意味深な流し目を送る。突然雰囲気の変わった彼女にどきりとして、私は固まってしまう。
「不穏な動き……?」
「ごまかさなくてもいいのよ。あなたは神馬検事と共謀して、父親が有罪になった過去の事件を掘り返そうとしている。そのカモフラージュで、婚約者を装っているんでしょう?」
当たらずとも遠からずの指摘に、鼓動が乱れる。でも、もし彼女の言うように私と神馬さんが協力関係にあったとしても、検察事務官の彼女に責められるようなことではないはずだ。
「過去の事件であろうと、間違った判決が出た裁判をやり直そうそうとするのはごく自然だと思いますけど……」
「私が懇意にしている方が、そんなことをされたら困ると言っているの。一般人のあなたは取るに足らない存在だけれど、神馬検事は違う。ゆくゆくは検察の中枢を担う優秀な検事よ。本来なら終わった事件を調べている暇なんてないの」