冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「……そう。困ったわね。どうしますか? 権藤検事正」

 舞鶴さんは気だるげにため息をつくと、関係ないとばかり思っていた隣の男性に話しかけた。すると男性が、グラスの横に置いていた眼鏡を手に取って、かける。

 その時初めて、後ろにきっちり撫でつけられた髪形に見覚えがあると気がついた。

 ゆっくりこちらを振り向いた鋭い瞳に、全身が凍り付く。

 もしかして、舞鶴さんが〝懇意にしてる方〟って――。

「こうなったら、無理やりわからせるしかないだろうな。小さき者たちの戯言など、権力の前では無意味であることを」

 ――権藤。私が心の中でその名を呟くと、彼はぎしりと音を立ててカウンターチェアを下りる。それからゆっくり私のそばまで歩み寄ってくると、口元に酷薄な笑みを浮かべた。

 体は大きくないのに、ものすごい迫力と威圧感だ。

「村雨琴里。きみが思う以上に、検察という組織は封建的だ」
「封建的……?」

 聞き返す声が震えてしまう。ボイスチェンジャーで電話をかけてきたのは舞鶴さんではなく彼だったのではないか。確証はないけれど、そんな気がした。

「そうだ。たとえば神馬の奴が、起訴したい被疑者の情報を持って私のところへ来る。アイツのことだから、証拠も証言も完璧に揃えてあるだろう。しかし、実際に起訴するかどうかの決定権を持っているのは私だ」
「えっ……?」

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