冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
その間に、俺はとある人物に事件の調査を依頼し、自分は本来やるべき業務だけに集中しているポーズを取った。舞鶴の前でも検事正の前でも、ぼろは出さなかったと思う。
〝バイク事故の警告が功を奏し、神馬鏡太郎は大人しくなった〟
そんな自分を演出し、二週間が経った頃だった。
通常通り食堂を利用しつつも、必要以上に琴里と接触しないよう注意しながら、いつもの席で食事をしている最中のこと。
「鏡太郎さん」
久々に、俺の名を呼ぶ愛しい人の声を聞いた。いくら接触を避けているとはいえ、直接呼びかけられて無視はできない。
できるだけ表情に変化が出ないよう振り向くと、小鉢を手にした調理着姿の琴里がそこにいた。
一方的に見つめることはあっても目を合わせるのは避けていたので、彼女の瞳が俺に向けられている、ただそれだけで胸が熱くなってしまう。
複雑な胸中を押し隠すようにして、俺は彼女の手の中にある皿を覗いた。
「それは……梨か?」
「はい。また業者さんのご厚意でたくさんいただいちゃって。鏡太郎さん、スイカがお好きだったから梨も好きだろうと思って、試しに許可を得ずに持ってきてみました」
悪戯っぽい笑みも口調も、以前と変わらない。考えてみれば、お節介な琴里を敬遠していたあの頃から、俺の心を乱してくる彼女をすでに意識していたのかもしれない。