双子のパパは冷酷な検事~偽装の愛が真実に変わる時~
「今日……なにかあるのか?」
「いえ、そういうわけじゃないんです。気にしないでください」
彼女は我に返ったように首を横に振ると、逃げるように厨房の中へと戻っていく。
そのまま目で追っていたら、琴里は俺と話し込んでいたことを紅白婦人にからかわれて頬を染めていた。
いつも通りの光景だ。なのになぜ、こんなに胸が騒ぐ?
本当は琴里と一緒にいたいのにそうできない現状が、ただ切ないだけだろうか。
満たされない気持ちをごまかすように、琴里から受け取った梨をひと口齧る。とても甘く瑞々しい梨だったが、果物ひとつで心を騙せるわけもなく、釈然としない気持ちが胸の奥でくすぶり続けていた。
その日、琴里に言われたことがなんとなく気になったため、残業を早めに切り上げてマンションに帰った。
すると玄関に入った瞬間、琴里がこの家にいた時のような甘い香りが漂っていることに気づき、胸が一度大きく高鳴った。
帰って来た、のか……?
だとしたら、俺の帰宅を気にしていたのも、もしかして会いたいと思ってくれて――。
不用意な接触は危険だとわかっているのに、期待が膨らみすぎて靴を脱ぐのももどかしい。最近は職場でしか会っていなかったのだ。
帽子もマスクも取り去った、素顔の琴里に会いたいと思うのはあたり前だろう。