双子のパパは冷酷な検事~偽装の愛が真実に変わる時~

【鏡太郎さんへ

 梨は美味しかったですか? 最後に直接お話できたこと、それがたとえたわいのない果物の話でも、本当にうれしかったです。単刀直入に言いますが、私は弟の弓弦と一緒に、別の町へ引っ越すことにしました。食堂の仕事も今日で最後だったんです。大好きな仕事だったので、残念……。それに、紅林さん、白浜さんとお別れするのもとても寂しいです】

 昼間は三人ともそんなそぶりは見せていなかったが、俺に気づかれないように振舞っていたのだろうか。

 琴里はともかく、あのふたりにそんな能力があったなんてな……。

 他人事のように感心しているのは、この手紙の内容を事実と思いたくないから。琴里が俺の手が届かない場所へ行ってしまったなんて、信じたくないからだ。

【でも一番はやっぱり、鏡太郎さんと一緒にいられないのが寂しい。あなたの意地悪な物言いも、今思えばなんだか懐かしいです。私も極悪検事とか言っちゃったから、お互い様ですけど(笑)】

 かっこわらい、をこんなに悲しいものに感じたのは初めてだ。これを書いた時の琴里が、俺との思い出をなぞって切なくなったことが伝わってくる。

 泣きたいのに一生懸命強がって笑う時のように、無理をしてこの文字を書いたに違いない。

 俺はそこに琴里の温もりを探して、一文字一文字なぞっていくように、指先で触れる。

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