双子のパパは冷酷な検事~偽装の愛が真実に変わる時~
執務室には、立会事務官の舞鶴須美が先に戻っていた。
俺の席の傍らに小さなデスクを構え、事情聴取の際に供述調書を作成したり、警察などの関係機関に連絡を取ったりなど、細々とした事務業務で俺の仕事を支えてくれる存在だ。
二十九歳の彼女は迫力のある美人とでも言えばいいのか、目鼻立ちがくっきりしているうえ隙のない化粧で武装していて、あまり感情が読めない。
仕事が速く丁寧で、ゆくゆくは検事になりたいらしい。その目標があるからか、事件のことで疑問点などがあれば、俺の前でも物怖じせず発言する。
欠点があるとすれば、香水がきつすぎることくらいだろうか。アジア雑貨店に漂っていそうなオリエンタル系の香りに、いつも鼻がツンと痛くなる。
「おかえりなさい、神馬さん。権藤検事正がお探しでしたよ」
「検事正が? すぐに連絡をくれれば対応したのに。用件は?」
自席に腰を下ろし、舞鶴と目を合わせる。
権藤検事正は東京地検のトップ。俺たち検事の捜査や公判活動の指揮監督をする立場の人で、基本的には逆らわない方がいい存在である。
「お見合い話です」
「……は?」
どんな重要な話かと身構えていたのに、想定外の言葉が飛び出したため眉根を寄せる。