冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

 当時の俺は東京地検ではなく横浜地検に勤務しており、報道である程度の内容は知っていたが、公式の資料でハッキリとした内容を確かめたかったため、データベースにアクセスした。

 さっそく、事件概要から順に目で追っていく。

 都内の高級住宅街、星影台の中にある一軒家に強盗が押し入り、住人のひとりに怪我を負わせ、現金200万円を奪って逃走。

 住人は目隠しをされていたため犯人の姿を見ておらず、周辺の防犯カメラにも犯人の姿は映っていなかった。

 しかし、事件発生翌日にはひとりの男が逮捕されている。ピアノの調律を専門とする業者の技術者、村雨奏二(そうじ)、当時四十九歳。

「村雨……?」

 思わずその名字を口に出して呟いた。村雨奏二、そして村雨琴里。

 昼間、彼女の名前に既視感を覚えたのはこれが原因か……?

 村雨奏二に娘がいたかどうか、先を読んで確かめようとしたその時、デスク上の内線電話が鳴った。

 すでに業務時間外、かつ内密の資料に目を通していたため軽く動揺しつつも、緊急の用件かもしれないと受話器を取る。

「神馬です」
『ああ、神馬くん。遅くまでご苦労様。権藤だ』

 ……権藤検事正。思わず、視線をパソコンの方へ戻す。

 資料を下までスクロールさせていくと、担当検事の名が出てくる。

 今まさに、電話の向こうにいる相手だ。

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