冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

 翌日の金曜。朝、検察庁に登庁するなり、エントランスで「そこの検事さん、ちょっと!」と呼び止められた。

 声に反応して顔を上げると、ふたりの人物が突然駆け寄ってきて、俺の前に立ちはだかる。

 突然のことにぎょっとして足を止めた。

 目のまえには、面識のない中年女性がふたり。いや、彼女たちはもしかして……。

「あなた方は食堂の……?」
「そう。あたし紅林っていうの」
「あたしは白浜よ。紅白おばちゃんって呼んでくれていいからね」

 早口で自己紹介をされるも、理解が追い付かない。ふたりとも小柄でショートヘア、顔つきまで似ているため、どっちが(あか)でどっちが白か、覚えられる気がしない。

「私になにかご用で……?」
「そうなのよ! 検事さん、琴里ちゃんに惚の字なんでしょ? 実は彼女を助けてあげてほしいの」
「こん……コンセントカフェだったかしら? 水商売ってほどでもないんでしょうけど、店の場所が新宿のちょっと治安が悪いとこでさ。あの子、そこでアルバイト始めようとしているらしいの。あたしたちからも一応やめなさいって言ってみたんだけど、今夜の面接だけは受けるって言って譲らなくて」

 鼻息の荒いご婦人ふたりに圧倒され、すぐには言葉を返せない。

 いったいどこから突っ込むべきなのだろう。コンセントカフェ? それとも、俺が村雨琴里に気があると勝手に思い込んでいる彼女たちのたくましい妄想力?

 後者は完全に事実誤認としか言いようがないのだが。

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