冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「どうか落ち着いてください……。同僚の村雨さんが、いわゆるコンセプトカフェで働こうとしていて、今日がその面接日。しかし、あなた方はそれを阻止したい、という話ですね?」
「よくわかってるじゃない。さすがは検事さんね~」
褒められても全然嬉しくない。それどころか、このご婦人たちと話していると妙に疲れる。
「そういうわけだから頼んだよ。琴里ちゃん今日五時上がりで、面接は六時半からって言ってた」
「いや、ちょっとお待ちください。私にも都合というものが……」
「好きな相手がピンチの時に駆けつけなくてどうするの! そうでなくたって琴里ちゃん、家庭環境が複雑であの若さで弟さんの親代わりしてるのよ。健気な働き者のあの子が、間違って裏の世界に落ちちゃったらどうするの。検事さんの正義感は事件が起こってからじゃないと働かないのかい?」
それはさすがに素人の感情論だと言いたいところだが、なんとなく聞き流せなかった。
村雨琴里は、例の事件の被告人、村雨奏二の娘なのか。ハッキリしないまま昨日は資料を閉じてしまったが、家庭環境が複雑となるとかなりその線は濃厚だ。
加害者家族が辿る人生は、決して明るいものとは言えない。弟さんとの生活を守るため、少しでも時給のいい職場を探す気持ちもわかる。