冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

 ただ、あまりに治安の悪い場所で働くとなると、店自体に問題がなくても、犯罪に巻き込まれる確率は高くなる。

 暴力団関係者、または半グレなどの関係者に目をつけられ、本物の水商売に身を落としてしまう可能性だって……。

 悪い方へと考えるときりがなく、自分の中ですでに見過ごせない案件になってしまった。

 俺の妄想力も、人のことを言えないようだ。

「……わかりました。こちらも仕事があるので時間に間に合う確証はありませんが、気に留めておきます」
「よろしくねジンちゃん。これ、店の名前」

 ジンちゃん……? 馴れ馴れしい呼び方に寒気を覚えつつも、反論したら倍のおしゃべりが返ってきそうなので聞き流す。

 それから手の上にポンと、紙ナプキンに走り書きされたメモを渡された。『プリティ☆ギルティ』というふざけた店名に脱力する。

 食堂メニューと同レベルのセンスのなさである。

「あたしたちにとっちゃ娘も同然なんだから。もし琴里ちゃんになんかあったら、ジンちゃんの塩サバはいつも焦がしちゃうよ!」

 それはずいぶんと……ささやかな報復だな。

 検事なんてしていると、人間のどす黒い感情に触れることばかりだが、彼女たちからはそれが感じられず、思わずフッと笑ってしまった。

「あらま、笑うとますますいい男」
「琴里ちゃんの前でもそうしてたらいいのに」

 まったく、口の減らないご婦人たちだ。

 笑顔を見せてしまったことを後悔し、ゴホッと咳払いする。

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