冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「カオマンガイはともかく、韻を踏んだネーミングとか嫌いそうじゃない? あの人」
「パクチーも苦手かもしれないわ」

 私の両脇で気弱な声を出しているのは、ともに同じ会社から派遣されている五十代の女性調理スタッフ、紅林(くればやし)さんと白浜(しらはま)さん。

 ふたりとも明るい性格で、自分たちを『紅白おばちゃん』と呼んでは冗談ばかり言っている。そんな彼女たちでも、愛想のない神馬さんのことは苦手なようだ。

 そうこうしているうちに、料理を出すカウンターまで本人がやってきた。無言で差し出された食券には、思った通り【塩サバ定食】の文字。

 すっかり怖気づいている紅林さんと白浜さんに代わって私がそれを受け取り、思い切って神馬さんと目を合わせた。

「入り口にもポスターがあったと思うんですけど、今月からの新メニュー『旨さ殺人罪・カオマンガイ』は塩サバ定食と同じお値段なんです。もしよかったらお試しになりませんか?」

 マスクと帽子で顔はほとんど隠れているものの、営業スマイルを浮かべてみる。

 といっても自分の顔に自信があるわけではない。やや童顔で化粧っ気のない私を『垢抜ける前の朝ドラ女優って感じよね』と褒めて(?)くれるのは、紅林さんと白浜さんだけだ。

 セミロングの髪は一度も染めたことがないので、傷みも少なくわりと綺麗だと思う。しかし、職場ではひとつに縛って帽子をかぶっているから披露するタイミングがない。

 そんな私の笑顔に、心を動かす要素なんてひとつもなかったんだろう。

 神馬さんは少しもつられることなく……というかむしろ不機嫌そうに眉をぴくっと震わせ、私に冷ややかな視線を向けた。

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