冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
口に入れたコーヒーをごくんと飲み下し、動揺を悟られないように彼を見る。
「だとしたらなんだと言うんですか? 派遣会社に告げ口して、私を辞めさせるつもりですか?」
父のことを知ると、周囲の人は離れていく。
強盗傷害事件を起こした人物の娘となんて関わりたくない。いっそ、娘も攻撃的な人物かもしれない。直接そう言われなくたって、似たようなことを思われているのかはわかる。
だから、弟以外で気を許せる相手は、事件後も離れていかなかったたったひとりの親友だけ。
派遣会社にも特に申告せず、紅林さんや白浜さんも、私が弟とふたり暮らしであること以外は知らない。
でも、職場が検察庁となると神馬さんたちは都合が悪いのだろうか。犯罪者の娘をかくまっているみたいで、世間からバッシングを受けるのが怖いとか……。
「誰がそんなことを言った? 仮にその告げ口できみが切られたとしたら、それは不当解雇だ。罪を犯した者はともかく、その家族にはなんの落ち度もない」
警戒心を張り巡らせて彼を睨んでいたら、意外な言葉が返ってくる。しかし、今度は父を犯罪者だと断じられたようで、感情が昂る。
「父を犯罪者呼ばわりしないでください! 村雨奏二は無実です。検事さんなんかにわかってもらえないでしょうけど……っ」
「……きみに聞きたいのはその話だ」
「えっ?」
「俺は、きみのお父さんが起こしたとされる事件について調べている。あの事件には裏がある可能性が高いんだ。覚えていることがあればどんな小さなことでもいい。話を聞かせてくれないか?」