冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
怒りをこらえるように深呼吸をして、彼を見る。神馬さんのことだから、ムキになった私に呆れるだろうと思いきや、静かな眼差しを向けてくる。
「その金を俺が出すと言ったら?」
「……なにを言い出すんですか?」
「弟さんの学費はもちろん、弁護士になるまで全面的にサポートする。それと引き換えに、きみはお父さんの事件について洗いざらい俺に話す。その条件ならどうだ?」
足元を見られている。そう思うと、余計に腹が立った。
お金で情報を得ようだなんて、いかにも手段を選ばない検事らしい。
「同情ならやめてください……! 赤の他人に援助してもらおうなんて思いません」
話はこれで終わりだと言うように、カップに残ったコーヒーを一気に呷る。砂糖もミルクも入れずにいたせいか、苦い後味が舌の上に残る。
「確かに、いきなり現れた男に学費を出すと言われても、弟さんだって遠慮するか……。だったらいっそ、他人じゃなくなってしまえば……」
顎に手を添えつつ独り言のように呟いた彼は、何か思いついたように顔を上げ、私を真っすぐに見つめた。
「金のこと、一方的に施しを受けるようで気が進まないなら、交換条件を〝結婚〟にしよう。実は上司から見合い話を持ち掛けられていて、断るために『結婚を考えている恋人がいる』と出まかせを言ってしまったんだ。だから、その恋人役を演じてほしい」
涼しい顔でサラッと条件を変更する神馬さん。
父の事件について知りたいと言っていたはずなのに、突然結婚だなんてワードが飛び出して動揺する。