冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「そんなの、嘘をついた神馬さんが悪いんじゃないですか……! 私は関係ありませんっ」
「だから、学費を工面するための交換条件だ。実際に籍を入れろとは言わないから、しばらく婚約者として振舞ってもらう。その間に、事件のことも教えてくれ」
「なんか条件増えてるし……! やっぱり検事の取り調べって汚いです!」
きっと、こうやって自分が望む方向へと話を誘導していくのが彼のやり方なんだ。
私は傍らに置いたバッグから財布を出し、コーヒー代の五百円玉を握りしめてテーブルに置いた。
「帰ります。交渉は決裂です」
そう言って最後に彼をひと睨みすると、神馬さんは少し寂し気に長い睫毛を伏せた。
「……検事の取り調べは汚い、か。そう思わせてしまって申し訳ない」
そのまま頭まで下げるという、らしくない彼の行動に戸惑った。
さっさと帰ることもできたけれど、なんとなく気まずくて神馬さんに声をかける。
「あ、頭を上げてください。……私も少し言い過ぎました。父を有罪にした時の担当検事が神馬さんだったわけじゃないのに」
いくら父がひどい目に遭わされたからって、検事全員を恨むなんて間違ってる。
頭ではわかっていても時々心がついていかなくて、悶々とした感情を目の前にいる神馬さんにぶつけてしまっただけなのだ。