冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「下心はないと言ってるのに、なんで赤くなる?」
「べっ、別になんでもないです! 今度こそ帰りますから、私っ」
席を立ってそそくさ店を出ようとすると、神馬さんまで立ち上がる気配がしてとっさに手首を掴まれた。
振り向くと、長身の神馬さんがジッと私を見下ろしている。顔だけは犯罪級に美しい彼なので、見つめられているだけで心臓が早鐘を打った。
「そのうち、食堂に返事を聞きに行く。もしイエスと言ってくれたら、カオマンガイでも蓮根カレーでも何でも食べてやる」
「えっ」
「……あんなにしつこく勧めてきたくせに反応が薄いな。もっと嬉しそうにしろ」
そう言って、微苦笑を浮かべた神馬さん。職場で見かける時とは違う肩の力が抜けた表情に、なんだか調子が狂う。でも、結局のところ彼が検事であることに変わりはない。
気を許したってなにもいいことないよ……。
「……失礼します」
掴まれた手を振りほどき、店の出入り口へまっすぐ向かうと外に出る。
危ないところを助けてもらったのは感謝しているけれど、だからって婚約者のフリをするだなんて突拍子のない話に乗る気になんかなれない。
弟の学費は、私が頑張ればいいだけの話だもの。今のバイトを続けながら、今度はもう少し普通の仕事で、少しでも時給がいいところを探そう。