冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
決意を新たにしながら駅に向かって歩いていると、バッグの中でスマホが鳴った。新着メッセージが一件。
父の事件後も関係が続いているたったひとりの友人、加倉梓からだった。
【近々暇な日ある? 傷ありトマトと育ちすぎのきゅうりもらいに来て~】
梓は私が中退した家政大学を卒業した後、完全無農薬の野菜作りがしたいと一念発起して農業の世界に飛び込んだ。
今では府中に畑を借り、季節によって様々な野菜を作って直売所などで販売している。
しかしどうしても時々売り物にならない規格外の野菜が出るので、そんな時はこうして私に声をかけて譲ってくれるのだ。
【ありがとう。明日はバイトがない日なんだけど、急すぎる?】
【全然ウェルカムだよ~。近くに美味しいピザのお店もできたから、ランチがてら色々話そうよ。私、お得なクーポン持ってるし】
我が家の現状をありのまま知っているのは梓だけ。だから、こちらから言わなくてもランチのお店はリーズナブルなところを選んだでくれるのでとてもありがたい。
【了解。今外だから、帰ったら電車の時間とか調べて連絡する】
梓と短いやり取りを交わすと、バイト選びの失敗や神馬さんとの会話で落ちていた気分が、少し浮上した。
今日のこと、梓に会ったら改めて相談してみよう。弟には言えないし、紅林さんや白浜さんに話したら、必要以上に騒ぎそうだもんね……。
それでも、今日神馬さんが助けに来てくれたのはあのふたりのおかげ。週明けの仕事でちゃんとお礼を言おうと決め、私は帰り道を急いだ。