冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「いちいちここで会話するのも面倒だ。連絡先を渡す」
神馬さんも彼らの視線に気づいたのだろう。うんざりしたようにそう言った。
スーツの内ポケットから名刺入れを取り出し、名刺の一枚を裏返してボールペンを走らせて電話番号を書きつける。
それから無言でカウンターの上を滑らせ、こちらに差し出してきた。
「出なければ留守電に用件を残しておいて。後でかけ直す」
「はい。了解です」
そのやり取りを最後に、神馬さんはカウンターから離れていく。
調理着のポケットに名刺を入れ、さてナポリタン……と厨房の方へ向き直ると、すでに紅林さんがパスタを茹で始めていた。
「ジンちゃんの分今作ってるから、琴里ちゃんが渡してやって」
「まったく、今頃電話番号を渡してるなんてホントに奥手なんだねぇ」
……いったん誤解を解いた方がいいだろうか。でも、彼と本当に偽装婚約するなら、むしろ私たちの間になにかあると思われていた方が好都合なんだよね。
悩みつつも、私は結局神馬さんとの関係を否定せず濁したまま、冷やかすような冗談を言われても笑ってごまかした。