冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「ええ。ただ僕は、食堂でいつも顔を合わせる琴里さんに、癒やしを感じていたんです。ですから、偽装というのは建前でずっとお近づきになりたいと思っていたんです」
癒やし? 私と会話する時の彼に、そんな効果を感じている様子は微塵もないけど?
ずっとお近づきになりたかったなんて、どの口が言うんだろう。
「本当に神馬さんのお仕事にはなにも関係ないんですか? 琴里に危険はありませんか?」
色々思うところはありつつも会話に割り込むことはできなくて、入り口のそばで立ったまま彼らの様子を窺う。
真剣な面持ちで再度質問を投げかけた梓に、神馬さんは深く頷いた。
「もちろんです。いくら検事という職に就いていても、家に帰った時くらい事件のことは忘れて寛ぎたい。そんな時、隣に彼女がいてほしいと思ったんです。琴里さんは年下ですが遠慮なく物を言ってくれて、お互いありのままの姿で生活ができそうなところにも惹かれました。交換条件を提示したのは、僕なりの照れ隠しでもあって……」
神馬さんはそう言って、いつになく好青年風に微笑する。
遠慮なく物を言うところに惹かれた、だなんてさすがに無理がある。遠慮なく新メニューを勧めたら、いつも呆れるか怒るくせに。
嘘まみれの彼の言い分にげんなりしつつ梓の方を見ると、あれほどまでに心配してくれていた彼女が、神馬さんをうっとり見つめて頷いていた。