冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「そうでしたか……。すみません、変なことを言って」
「いえ。琴里さんはお父さんの事件、そしてその後の裁判で大切なものをたくさん失っていますから、いきなり検事に求婚されたとなったら、ご友人の梓さんが心配されるのは当然です。今後も、どうか彼女のことを気にかけてあげてください」
えーっと、誰ですか? そう質問したくなるほど、神馬さんは猫をかぶっていた。
表情も声音もやわらかい空気を纏う彼はまるで別人。普段の彼を知る私にはそれがわかるけれど、梓はすっかり丸め込まれていた。
「じゃあ、神馬さんが琴里のお父さんの事件について知りたいのって……?」
「もちろん、彼女と弟さんを救うためです。お父さんの事件のことは、琴里さんたち姉弟ふたりで抱え込むには大きすぎる。幸い僕は法律に詳しいですから、ふたりのよきアドバイザーかつ、経済的、精神的な支えになっていければと思っています」
いつもは無愛想な冷徹検事のくせして、今日の彼はまるで敏腕営業マン。その話術にすっかり心酔した様子の梓は、ホッとしたように息をつくと、ようやく私の方を見た。
「琴里。神馬さんならきっと人生預けても大丈夫だよ。ちょうど神馬さんも早めに来てたから、十分くらいふたりで色々話してたの」
「えっ?」
思わず神馬さんの方を見ると、彼は私を目を合わさずに素知らぬ顔をしている。
しびれを切らした私が梓の隣に座って「色々って……?」と尋ねると、梓が私に耳打ちする。
「名刺をもらって丁寧にあいさつされて、お土産までいただいちゃった。どれほど腹黒い検事なのかと思えば、めちゃくちゃ爽やかなイケメンじゃない」