冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
神馬さんはアパートの前で私を下ろすとすぐに帰っていった。車が見えなくなってから二階の部屋に帰ると、いつもダイニングで勉強している弓弦の姿が見えない。
「ただいまー」
声に出したものの、返事はない。耳を澄ませると浴室から物音が聞こえたので、シャワーでも浴びているんだろう。
バッグを椅子に置き、朝干しておいたベランダの洗濯物をしまおうと歩き出す。その時、床に落ちていた紙に気づかず踏んづけてしまった。
「わ、大事なやつだったらどうしよう……」
素材の感じからいって、学校からの配布物のよう。拾い上げて確認すると、本当に大事な手紙だったのでますます冷や汗をかいた。
【修学旅行参加申込書】
旅行自体は二学期に行く予定だったと思うけれど、参加申し込みだけは早めにしなければならないらしい。すぐに書いて持たせなくちゃ。
視線を下の方に移動させると切り取り線があって、修学旅行に参加する・しないのどちらかを丸で囲み、保護者の氏名を添えて提出するようになっている。――しかし。
「えっ……?」
私は書いた覚えがないのに、村雨琴里の名で【参加しない】に丸がしてあった。
どういうこと? 弓弦が自分で書いたの……?
プリントを握りしめたまま固まっていると、浴室へ続くドアから弟が出てきた。
「ああ、おかえり。それ、なに見て――」
弓弦は私がなにを手にしているのかすぐに気づいたようだ。気まずそうに私から視線をそらし、唇を噛む。