冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「大丈夫。年上だけど変な人じゃないよ。……彼、検事なの」
「検事……えっ。どこの?」
「職場の東京地検。そこで知り合ったの」
驚きすぎて言葉もない様子の弓弦。なにか突っ込まれる前に、こっちから説明してしまおうと言葉を続ける。
「当たり前だけど、お父さんの事件を担当した人じゃないよ。私たちの状況は知っていて、むしろ応援してくれてる」
これくらいの嘘は許されるだろう。彼だって梓に似たような説明をしていたし。
弓弦はまだ半信半疑なようだが、やがて状況を理解したように頷いた。
「……そ、っか。もしかして、俺のネックレスが効いた?」
「そうかも。これをもらった直後だもん、プロポーズされたの」
正確には偽装婚約の提案だけれど、今だけ幸せな姉を演じる。今日も身に着けていたネックレスに触れ、弓弦を見つめて微笑んだ。
「よかったな。ホント、姉ちゃんは俺のために働いてばっかだったから……その人と幸せになってくれよ、絶対」
弓弦のこんなホッとしたような顔は、初めて見たかもしれない。そんなにも心配されていたなんて姉として情けないけれど、それ以上に弟の優しさで胸がいっぱいになる。
「……弓弦、ありがとう。これからのこと彼と相談して、なにか決まったらすぐに教えるね」
「俺も早めに挨拶したいからそう言っといて。学費のこと、お礼言わなきゃ」
弓弦は姉を愛した男からの純粋な厚意だと思っている。騙している罪悪感に胸がチクチク痛むけれど、本当のことは言えない。