冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「ひょっとしたら、別人の靴という可能性があるのではないかと思っています。あなたは誰かを庇っているんじゃないですか?」
脇で記録を取っている舞鶴が口の動きだけで「えっ?」と言う。ずっと俯いていた小早川が、初めて俺の目を真っすぐに見た。
挑むような強い眼差しだ。
「誰かって、誰です? 適当なことを言わないでください」
黙秘を破って発言したことが、彼の動揺を物語っていた。俺は手元の捜査資料を捲り、小早川の家族について記されたページを開いた。
「たとえば――」
医者の両親を持つ彼だが、高校卒業後、実家を離れてひとり暮らしを始めている。
建設作業の現場で働き、勤務態度は良好。酒やギャンブルなど金のかかる趣味も、借金もない。
あくまで捜査情報の上でだが、闇バイトに手を染める理由は皆無と言っていい。
警察でも動機については攻めあぐねたようで、本人の『もっと贅沢な暮らしがしたかった。建設現場の給料では足りなかった』という言い分をそのまま動機としたようだ。
しかし、これまで真面目に働いてきた人間なら、闇バイトに手を染めてしまった後どうなるかについても、想像ができたはずだ。
もっと想像力や社会性の欠如した者の犯行ならば納得できるが――そう思った時、彼の家族についての記載が目に留まった