冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

【都内私立A高校一年生の弟(十六歳)。中学三年から不登校。母親の証言によると、引きこもりがちのため事件当夜も部屋にいた】

 ――彼は果たして、本当に部屋にいたのだろうか。

「実家の弟さんとは、最近会っていますか?」

 小早川は顔色こそ変えなかったが、唾を飲み込んだのが、喉仏が上下する動きでわかった。

「……会っていません」
「最後に会ったのはいつですか?」
「さぁ……あまり実家に帰らないので忘れました」

 素知らぬ顔で答えているが、机の下では貧乏ゆすりをしている。なぜ弟について聞くのかと苛立っているのだろう。おそらく、弟が小早川の弱点だ。

「弟さん、優秀なんですね。A高校、簡単に入れる偏差値ではありません」
「ああ。アイツは親に似て賢いんだよ。それがどうした?」
「では、どうして引きこもりに?」
「……しつこいな、両親だよ。俺がバカで高卒で働きだしたもんだから、両親の期待が全部アイツにのしかかって……」

 のしかかって、どうなったのか。なんとなく想像がつく気がするが、小早川が言葉を継ぐのを待つ。

 彼は徐々に苦しげな顔になり、やがて観念したように口を開いた。

「A高校には受かったが、そこで気持ちが切れたのか、人が変わっちまった。まったく勉強をしなくなってネットゲームにのめりこんで、そこで知り合った奴らに……そそのかされたらしい。だから、元を正せば俺のせいなんです」

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