私の世界に現れた年下くん
村井先輩だ。
窓の外をじーっと眺めてて、こっちには全く気づかない様子。
何を見てるのかな、と私も窓の外へ目をやると、見えたのはテニスコートでテニスをしている人たち。
テニス部?
誰か知り合いでも…あ。
ふと思い出したのは、村井先輩から元カノの存在を聞いた日のこと。
待ち合わせ場所に行ったら先にいた、先輩の元カノ。
テニスウェアを着て、テニスラケットを持っていた。
顔を覚えてないから分からないけど、あの中にいるのかも。
眺めながら思った。
村井先輩に目を戻すと、まだ窓の外を見てる。
先輩、もしかして…
「村井先輩」
いつのまにか先輩に声をかけていた。
先輩が私の声に気づいて振り向く。
「川原、」
「お久しぶりです」
そっと先輩に近寄る。
「テニスしてますね」
「あーうん、そうだね」
曖昧な返事。
「村井先輩、私…」
「先輩のこと、ずっと好きでした」
突然の告白に、えっ、と驚いたように私を見る。
「先輩に振り向いてもらいたくて、今まで色々悩んできました。苦しいこともたくさんあって、自分のほんとの気持ちが分からなくなったりもして」
「でもようやく、今自分が誰を好きなのか分かったんです」
「先輩もほんとは好きな人いるんじゃないですか?」
「え…」
「私の勘違いだったらすみません。でもなんとなくそんな気がしたので」
“今は彼女作るとかそういうのいいかな”
あの言葉の裏には、元カノさんへの捨てられない気持ちが隠れていたんじゃないの?
黙り込んだ先輩の表情がふっと和らぐ。
「こんな俺を好きになってくれてありがとう」
「いえ、」
川原の言う通りだよ、と言って、窓の方へ目を向ける先輩。
「元カノのこと、別れてからもずっと忘れられなくて、未練たらたらで」
先輩が苦笑いする。
「川原の気持ちにはなんとなく気づいてて、応えたいって気持ちもあったんだけど、結局どっちつかずで…。ほんとごめんな」
ペコッと頭を下げた先輩に対して、首を横に振る。
「先輩と一緒に帰ったりしたの、ほんとに楽しかったです」
「うん、俺も楽しかったよ。ありがとう」
「ありがとうございます」
お互いにお礼を言い合ったら、なんだか胸の奥がスッキリした。
「なんか川原…ちょっと変わったね」
「え、そうですか?」
「今好きな人のおかげかな?」
村井先輩がいたずらっぽく笑う。
そう…なのかもしれない。
きっと名倉くんのおかげ。
先輩と話し終わった後。
下駄箱に向かいながら、すぐにスマホを取り出して、名倉くんに電話をかける。
プルルル…プルルル…
今まであんなに、村井先輩に対して、
聞きたいことを聞けなかったり、気持ちを伝えられなかったり、気まずくて避けてきたりしていた私が素直に話せるようになったのは、
名倉くんに出会えたおかげなんだよ。
名倉くんがまっすぐ私を好きになってくれたから。
そんな名倉くんへの気持ちに、やっと気づくことができたから。
ちゃんと伝えないと。