私の世界に現れた年下くん

何度目かの発信音のあと、プツッと繋がった音がして、

「…もしもし?」

小さな声が耳に届いた。


「もしもし、名倉くん?」

「川原先輩、」

「今どこ?」

「え、今は帰るところで…」

「もう駅着いちゃった?」

「あ、いやまだですけど、あの何かありま」

名倉くんの声を遮り、「ちょっと待ってて!」と言って電話を切った。

下駄箱に着くと、急いで靴を履き替え、校舎の外へ出る。

早く。

早く会いたい。

会って伝えたい。

駅の方向へ必死に走る。



「川原先輩!」

途中で私の名前を呼ぶ声がして、ハッと前を見ると、名倉くんが向こうから走ってきた。

「名倉くん!」

「どうしたんですか」

名倉くんがびっくりした顔で私を見る。

「電話なんて初めて…何かあったんですか」

「はぁはぁ…ごめ、あの…はぁ、」

話そうとするも、息が上がって全然言葉にならない。

大丈夫ですか…?と心配そうな名倉くん。

「だいじょぶ、はぁ」

「…先輩、ちょっとこっち」

ゆっくり歩き出した名倉くんに、息を整えながら付いていく。

近くの公園に辿り着いて、ベンチに座って休む。

「お水買ってきましょうか」

「ううん大丈夫、落ち着いてきた。ありがとう」


私の言葉を聞いて、そっと横に座った名倉くんの方を向く。

「ごめんね、突然」

「いえ…何かあったんですか?」

「あのね、ずっと話したかったんだけど、なかなか会えなくて…。もしかして避けられてるのかな、なんて…」

そう言うと、心当たりがあるのか黙ってしまった。

やっぱり避けられてたんだ…

ちょっと、ショック。


「ごめんなさい」

「……私のせいだよね、返事できてないから」

「違います!川原先輩のせいじゃないです!」
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