君の鼓動を、もう一度
美咲は体育祭当日、リレーの出場者として密かに決意を固めていた。

 「絶対にバレないようにしないと……」

 悠斗にバレたら、間違いなく怒られる。だから、今日は何としてでも誰にも気づかれずに走りきらなければならない。

 友人たちと待ち合わせた場所で、美咲はサングラスと帽子を受け取る。
 「これで完璧。誰にもわからないはず」
 美咲は少し興奮しながらも、どこか不安そうに口を噤む。

 「リレーのスタートまであと少しだよ、急がないと!」
 仲間たちが手を引いて急かすと、美咲は頷いて走り出した。

 周囲にはたくさんの学生たちが集まり、賑やかな雰囲気が漂っている。
 美咲はその中に紛れ込むようにして、できるだけ目立たないように足早に走り向かう。

 「美咲、準備できた?」
 仲間の一人が心配そうに聞いてくるが、美咲はうなずく。

 「大丈夫。問題ないよ。」

 そして、いよいよリレーが始まる。美咲の番が回ってきたとき、もうすでにかなりの緊張が全身に広がっていた。
 走る前の自分に言い聞かせるように呟く。

 「これは最後のチャンス。これを逃したら、もう悔いは残せない。」

 リレーがスタートすると、次々とバトンが渡され、いよいよ美咲の番が来る。
 その瞬間、美咲の足が速く動き出し、何もかもが焦点を定めたかのように感じる。

 しかし、ここで予期しない事が起きる。

 「まさか……悠斗が!」

 美咲が走りながらふと目を上げると、悠斗が観客席にいるのを見かけた。
 背筋が冷たくなり、心臓がドキドキし始める。普段なら冷静で頼りになる悠斗だが、今は彼に見つかるわけにはいかない。

 急いでサングラスを押さえ、顔を隠しながら、必死に走り続ける美咲。
 「どうして、今ここに悠斗が!?絶対バレたくない!」

 もうリレーのバトンが渡された。自分の番だ。
 美咲はスピードを上げ、全力で走り出すが、途中で足を踏み外し、思わず足がもつれてしまう。

 「やばい、危ない!」

 とっさに踏ん張って体勢を立て直すものの、心臓の鼓動は激しくなり、呼吸も乱れ始める。
 それでも、美咲は必死にゴールを目指して走り抜ける。

 そして、ラストスパート。
 ゴールが近づくと、美咲は力を振り絞って全力疾走を続ける。しかし、その瞬間、観客席の悠斗が彼女を見つけたのだ。

 「美咲!」

 声が届く前に、ゴールラインを越え、リレーが終了した。
 美咲は呼吸を整えようとしながら、息を呑んだ。

 悠斗がこちらに駆け寄ってきて、すぐにその変装に気づく。

 「美咲、何やってるんだ!?」

 驚きと怒りが入り混じったその声に、美咲は少しだけ顔を上げ、無言で悠斗を見つめた。

 その瞬間、彼女の胸がギュッと締め付けられるような気がした。見つかってしまった――でも、ここまで来たからには、最後まで言い訳せずに、堂々と向き合わなければならない。
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