君の鼓動を、もう一度
 窓のカーテンの隙間から、やわらかな朝日が差し込んでいた。

 ICUの機械音は、変わらず一定のリズムを刻んでいる。

 美咲のまぶたが、ゆっくりと動いた。

 「……ん……」

 声にならない声が、彼女の喉から漏れた。呼吸器はすでに外され、酸素マスク越しに新しい空気を吸い込む。

 目を開いた瞬間、真っ先に見えたのは、彼の顔だった。

 「……悠、斗……?」

 「美咲……!」

 その声に、全身の力が抜けそうになった。涙がこみ上げた。彼の手が、自分の手をしっかりと握ってくれている。

 「バカ……なんで、泣いてるのは……こっちなのに……」

 「ああ……バカでいい。お前が目を覚ましてくれた、それだけで……」

 悠斗は涙を堪えきれず、眉をぎゅっと寄せて笑った。

 美咲も、微かに微笑んだあと、ふと目を伏せる。

 「……ごめん。勝手に……あんなことして」

 「謝るな。俺のほうこそ、守りきれなかった……お前が走る姿、応援したかったのに。なのに……」

 彼の声は震えていた。

 だけどその目は、しっかりと彼女を見つめている。

 「美咲。お前を、生きさせたい。どんな形でもいい。……少しでも長く、俺の隣にいてほしい」

 言葉を飲み込みそうになりながら、それでも彼は伝えた。

 「新しい手術の可能性がある。完治は難しいかもしれないけど、延命はできる。医者としてじゃない、ひとりの男として言わせてくれ。——生きて、俺のそばにいてくれ」

 美咲の瞳が大きく見開かれ、そして涙が一粒、頬を伝った。

 「……うん。まだ、怖いけど……でも……」

 彼女は震える声で、でも確かな言葉で言った。

 「わたし……もう一度、生きてみたい。悠斗の隣で」

 ふたりの指が、ぎゅっと重なった。

 その手は、離さない。
< 26 / 43 >

この作品をシェア

pagetop