君の鼓動を、もう一度
バス内は、もはや日常の喧騒とはかけ離れた、冷徹な空気に包まれていた。
男たちは目を光らせ、車内を一歩一歩歩きながら、乗客を監視している。
目の前で起きている恐怖に、美咲は体が固まったまま動けない。

「……動くなって言ったろ?」

男のひとりが美咲の目の前に立ち、冷徹な声を上げた。
その腕に持っているのは、黒い拳銃。
それがまるで自分に向けられそうな気がして、視線を逸らすこともできず、唇を噛んで耐えるしかなかった。

「……お願い、何もしないで」

心の中で何度も繰り返す言葉。
この状況に耐えるだけで精一杯で、逃げ道なんてどこにも見つからない。
静かに座っている他の乗客たちも、顔色が青くなり、恐怖に震えている。

その中で、誰もが心の中で一番の恐怖を感じていたのは、美咲かもしれない。
自分の命がどうなるか、それを考えたときに、ただ静かに終わってしまうのではないかと不安で押し潰されそうになる。

そして──

「……今、報道が流れたぞ。」

隣の男性が、突然テレビの速報を見て呟いた。
ニュースの内容に、乗客たちが一斉に反応する。

『本日午前、都内でバスジャック事件が発生。犯人は数人で、数名の乗客が拘束されている模様。詳細は未確認ですが、武装した男たちが乗客の携帯を取り上げ、事件を拡大させている模様です……』

その報道を耳にした瞬間、胸が締めつけられるような気がした。

「悠斗……」

携帯が取り上げられていると気づいたその瞬間、胸の奥で何かが引っかかる。
悠斗の顔が浮かぶ。彼のことが、今のこの状況と繋がりそうで怖かった。

その間にも、男たちは一段と警戒を強め、乗客をさらに動かさないように命じていた。
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