ふたりだけのオーキッド・ラグーン
 「いや、そうでなくて……、あの、もうちょっと待ってください。終わったら、湯船に入りますから」
 「うーん、まあ、奥さんに嫌われるのもあれだから……」

 なんとか譲歩を引き出して、真紘はセリフどおりに体を洗うとさっさとフラワーバスへ飛び込んだのだった。

 真紘に続いて、瑠樹も体を洗い湯船に入ってくる。遠慮なく、真紘の隣に陣取った。
 瑠樹が湯に入るに合わせて、湯面が持ち上がる。合わせて、ゆらゆらと花も揺れる。

 (花がいっぱいで、ゴージャスなフラワーバスでよかったよ)

 顎下までしっかり湯に浸かった状態で、真紘は思う。湯面近くからみるバスタブは、一面のお花畑だ。これなら、真紘の裸はみえない。

 「やっぱり湯に浸かるのは気持ちいいなぁ~」

 瑠樹は体の奥からリラックスした声を出す。
 なんと瑠樹は、真紘がくるまで風呂はシャワーで済ませていたという。着任直後からずっと忙しくて、帰宅と同時にバタンキューとなり、気がつけば朝となっていて、慌ててシャワーだけ浴びて出勤していたとのこと。
 そんなことをきけば、右も左もわからない真紘があとから遅れてシンガポール入りするのはよかったのかもしれない。

 ふたり並んで花湯に浸かっていれば、先の緊張が解けてくる。湯の温かさもあれば、この柔らな花の香りの効果もあるのだろう。裸を見られることにドキドキしていたが、芳香を吸い込んでいくうちに、そんなことどうでもよくなってきた。今の状況は、瑠樹のいう「夫婦だから」を楽しんでいることにならないか?

 「お花のお風呂って、いい香りがするんですね」
 「あ、それは、バスオイルだ。花だけだとやっぱり香りはないからね、キットの中についてたやつだけど」

 どうやらここにはフラワーバスのキットがあるようだ。
 でもこれだけの生花を集めるとなれば、お値段もそれ相当のものだろう。やはりセレモニーに相応しい特別なものである。

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