ふたりだけのオーキッド・ラグーン
 はつらつとした鎌田女史を見送って、真紘はあと片づけをする。
 しっかり前をみて、きちんと考えて、迷わず行動する鎌田女史のことを、今日も素敵な女性だなと真紘は思う。地に足がついているとは、こういうことなのだろう。

 その鎌田女史からは「好きなことをしてもいいんだよ」ともいわれて、肩の荷が下りたような気がする。瑠樹との生活は、業務のような追われるものではないのだ。
 同時に、「好きだけどできないこともある」という現実も認識する。そうそれは真紘の場合、料理である。
 休日に瑠樹と一緒にキッチンに立つが、やはり料理は夫のほうが上手なのだ。もうこれは技術でなくセンスの問題だと思う。これについて、あまり深く考えると落ち込んでしまう。

 (瑠樹さんにできなくて私にできることって、何かあったかしら?)

 片付けの最中に、偶然リビングの隅にあるソーイングキットが目に入る。先日、瑠樹の袖口のボタンをつけたときのものだ。アパートメント備品の簡易キットで、意味もなく、その場に放置したままだった。

 「…………」

 そういえば……と、真紘は思い出す。中学の調理実習はうまくいかなくていい思い出はないが、ミシンはそうではなかった。

 「…………」

 そういえば……と、これも真紘は思い出す。先日のボタン付けのことを瑠樹さんは褒めてくれた。
 なんだかこれ、次のヒントが見つかりそうな気がする。

 時刻をみれば、夕刻が迫っていた。これ、夕食を作るには通常よりも早い時間だが、料理が得意でないから真紘はこの時間から用意に取り掛かるのだ。
 瑠樹さん、帰ってきたら、なに話そうか?
 そんなことを思いながら、いそいそと真紘は夕食の支度をはじめたのだった。
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